2022年10月30日日曜日

豊予海峡ルートの話題(2022年10月)

 4日 広瀬知事、次の知事選への不出馬を表明

13日 堤栄三県議、決算委で豊予ルートを批判

13日、14日 大分市が豊予ルートの勉強会を開催

14日 九州地方整備局が竹田阿蘇道路の着工を発表

 

4日 広瀬知事、次の知事選への不出馬を表明

大分県の広瀬勝貞知事は定例会見で、来年春に予定されている県知事選に出馬しない意向を表明した。5期20年に亘る広瀬県政は2023年4月に幕を下ろすこととなる。

〜〜〜〜〜知事記者会見2022104日分より、該当部分書き起こし(筆者による)〜〜〜〜〜

一身上のことでございますけれど、次の選挙で私はどうすべきか、手を挙げるべきか否かということについて熟考を重ねて参りました。結論と致しましてですね、今季限りで知事の仕事を辞めることと致しました。次の知事選には立候補しないということであります。

理由はですね、やはり近頃足腰が弱ってですね、立ち歩きが不自由になって参りました。そのことがやはり最大の原因であります。

〜〜〜〜〜

大分県知事は公選になってからの19代に5人しかいない。1979年から24年間・6期に亘る平松県政を引き継いだ広瀬知事も20年間・5期の県政を行った。長期政権志向のある大分県知事ポストが久しぶりに入れ替わることとなった。

広瀬知事は2022年現在全国の知事で最高齢、当選回数も最多タイ。

2003年の就任早々に県債務の削減のため、豊予海峡ルートの推進を打ち切った。しかし、当時喫緊の課題であった東九州自動車道の全通を受け、20142月の県議会では「第二国土軸構想や東九州新幹線構想について、将来発展に向けてどう取り組むのか検討する時期に来た」とした。その後、2015年に就任した佐藤大分市長による豊予海峡ルートの推進を県として後援してきた。

 

13日 堤栄三県議、決算委で豊予ルートを批判

堤氏は13日にツイッターを更新した。内容は以下の通り。

「大分県議会決算委員会。企画振興部では、東九州新幹線や豊予海峡ルート構想について、県や市がシンポを行う場合推進派ばかりで問題点を指摘する人が誰もパネラーでいない。これでは県民が公平な判断ができないではないか。今後負の問題も取り上げたシンポにするように求めました。」ツイートのリンク

正論ではあると思うが、現実的ではないだろう。そもそも問題点を取り上げるのは堤氏のような反対派議員の仕事であって、税金で行うシンポジウムでやる仕事ではないと筆者は思う。堤氏にはぜひ負の側面を取り上げ、県民の議論を喚起して欲しい。

堤県議は本年日にも街頭演説で豊予海峡ルートを批判している。

なお、上記ツイートをリツイートしたところ、堤氏にフォローされた。 


13日、14日 大分市が豊予ルートの勉強会を開催

大分市は13日に大分市役所で勉強会を開催した。佐藤市長はもちろん、臼杵市・豊後大野市、愛媛県、日本青年会議所が参加したという。愛媛県の参加は大きなことで、さらに臼杵や豊後大野市の参加も嬉しい。豊予海峡ルートで最も得をするのは大分市であるが、周辺にも大きな経済効果をもたらすことは間違いない。

県内市町村の足場固めは当然のことだが、かねてより筆者が主張しているように、宮崎県にも参加を呼びかけて欲しい。東九州が一体となって豊予海峡ルートを実現させ、これに伴い東九州道を拡幅することで経済効果はさらに大きくなる。

翌日の14日には竹田市の中九州横断道路竹田ICに出かけ、竹田阿蘇道路の工事現場を視察した。この視察は、大分市が豊予海峡ルートについて道路案を重視していることを示すのではないか。

 


現在の大分県内の高速道路の整備状況は上図の通りである。東九州道と九州横断道は開通しているが、中九州道は未だ建設途上にある。この勉強会と同日に、九州地方整備局は中九州道の県境区間「竹田阿蘇道路」の着工を発表した。中九州道が整備されれば、豊予海峡道路の波及効果も拡大する。大分県の内陸部に位置する豊後大野市が勉強会に参加したのも、そういった意図があってのことかもしれない。

〜〜〜〜〜大分建設新聞20221026日〜〜〜〜〜

大分市は1314日の両日、大分市と竹田市で「豊予海峡ルート推進に関する勉強会」を行った。勉強会には佐藤樹一郎大分市長をはじめ、臼杵市や豊後大野市、愛媛県、日本青年会議所など豊予海峡ルートの実現を目指す関係行政機関各所、民間団体などが参加した。

初日は大分市役所で開催され、約50人が参加。佐藤市長は「調査やシンポジウムを実施、PRし続けたことにより、豊予海峡ルートの必要性がかなり認識されてきたように感じる。しかしなにぶん一自治体だけの力では実現が難しい。関係する大分、愛媛両県はもとより、日本の交通軸の整備、国土強靱化、地域の発展の意味でも、国を巻き込んで実現させていくべき取り組みになる」と、広域的な気運の盛り上がりを必要とした。

豊予海峡ルートは、大分県佐賀関半島―愛媛県佐田岬半島をつなぐ約14㌔のルート。距離は東九州自動車道の大分別府間とほぼ同じで、区間内の最大水深は約180㍍ある。大分市による調査では、海峡ルート建設実現に当たっては鉄道の新幹線単線(大分松山駅)でトンネル建設の場合が概算事業費6860億円、橋梁複線の場合が1兆8070億円かかる。また道路では高速道路2車線(宮川内IC保内IC)でトンネル建設の場合が6900億円、橋梁の場合が1兆2830億円かかると試算している。このルートを利用して大分から大阪までの時間短縮は、鉄道、道路とも今までより98分短縮できるという。

勉強会では、九州各地の交通網整備の取り組みについて報告があり、JR九州が9月23日に開業したばかりの西九州新幹線「かもめ」の概要、利用者数、経済効果などについて、また愛媛県土木建築部が四国の幹線道路網の整備状況などについて講演した。

勉強会2日目は、中九州横断道路竹田ICに出掛け、竹田阿蘇道路(L=22・5㌔)の濁淵川橋(会々地先君ケ園地先)下部工工事現場(施工㈱盛田組)を視察した。佐伯河川国道事務所工務課の中村真一郎建設監督官が、竹田阿蘇道路の概要や開通におけるメリット、今後の工事予定などについて現地で説明を行った。

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14日 九州地方整備局が竹田阿蘇道路の着工を発表

上の記事で解説したので、引用のみ。

〜〜〜〜〜乗りものニュース20221020日〜〜〜〜〜

九州地方整備局は20221014日(金)、熊本県と大分県をつなぐ中九州横断道路のうち、両県境にまたがる工区「竹田阿蘇道路」の工事に着手すると発表しました。

 中九州横断道路は、熊本市の九州道と大分市の東九州道をむすぶ計画の高規格道路。JR豊肥本線の道路版ともいえる広域ネットワークを形成します。総延長120kmのうち、66%にあたる79.8kmがすでに事業化・着工もしくは開通済みとなっています。

 そのなかで竹田阿蘇道路は、ほぼ中間にあたる延長22.5kmの工区。阿蘇の高原へ駆け上がる山岳地帯で、熊本県側と大分県側では500m近い標高差があります。

 熊本県側では隣接して「滝室坂道路」工区が工事中。約4.8kmの「滝室坂トンネル」は2018年に着工し、ことし8月に避難坑が貫通を迎えています。大分県側では2019年に竹田IC~犬飼ICまでが開通しています。

 道中に急峻な山脈はなく、ほとんどが橋梁か盛土・切土となります。2019年に事業が始まり、設計や用地取得が進んできたこの道路計画が、いよいよ具体的な工事の段階へ進みます。着工式は1211日の予定です。

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2022年10月29日土曜日

グランクラスをしゃぶり尽くす【後編】(はやぶさ)

25分頃に新幹線乗り場に着いたが、はやぶさはまだ清掃中であった。ラウンジで「清掃の時間が長い」と嘆いている夫妻がいたが、まさにその通りであった。ようやく入れたのは発車時刻の4分前くらいだっただろうか。

はやぶさの先頭車両10号車、グランクラスのマークが輝く車両に乗り込む。多分筆者は澄ました顔をしていたことだろう。重厚なドアを二つ抜けると、18席の至高の空間が現れる。JRのホームページでは「“18人のお客さまだけに用意された、特別なおもてなし」と、18という数字をやたら強調している。18という数字にはあまり良いイメージはないものの、とにかく少なく上質なサービスが受けられるということである。E5系グリーン車の定員が55名だから、その半分よりもっと少ないのだ。

 

この日のはやぶさは満員で、その18席も全て埋まっていた。が、皆が東京から乗ってくるわけでもなく、この時点では8席ほど空いていたように思う。ちなみに余談だが、グランクラスでは使用後の座席に後から乗る客は座らないようになっているとのこと。流石は新幹線のファーストクラスである。

 

席は当然のように1+2列の方式で、筆者は一人旅のため一列の席を選んだ。はやぶさのE5系は指定席が2+3列、グリーン席が2+2列のため、一列の座席というのはグランクラスにしかない。満員だから、一人旅でグリーン以下に乗ると必ず誰かと隣り合わせになってしまう。一人旅で一列に座ってこそ、グランクラスの効用も高まるのだ。

 

座席自体も非常に快適。倒しても後ろの人に迷惑がかからない方式であり、43.6度のリクライニングを最大限に発揮できる。また、レッグレストまで電動で動くようになっているのは驚いた。

テーブルは前の座席に付いているのではなく、特急ソニックのように脇から取り出す仕様。これが案外困りもので、後述するようにグランクラスでは軽食や飲み放題のドリンクが楽しめることから、常に机を展開することになる。それゆえに、出入りやカバンを取るなどの前後の所作にかなり制限が加わるのだ。尤も、ドリンク用の小さいテーブルも用意はしてあるのだが、使い勝手が悪い。

 

そんなちょっとしたデメリットに余りあるサービスを施されることになる。出発後すぐにアテンダントさんが挨拶に来て、ウェルカムセットをくれる。筆者は最前列に座っていたので、一番初めに貰えて嬉しい。中身はミネラルウォーターと肉厚なお手拭き、そしておつまみの「しおちょこ」の三つ。

さらに茶菓子もあるのだが、これはフードロス削減のためにアテンダントに言わなければ出てこない仕様となっている。当然ながらお願いして出してもらう。「しおちょこ」と茶菓子のパウンドケーキは都合で同行できなかった彼女へのお土産とした。

それにしても、「SDGsなんて辛気臭いこと言わず、黙っていても持ってきて貰いたいなあ」と思うのは、貧乏人ゆえの思考だろうか。

「ニシノ」「セイウン」等の馬主である西山氏はTwitterをやっておられ、非常に面白く拝見させていただいているが、こんなことを仰っていた。ビジネスクラス機内食がデパートで販売される旨のニュースに対するコメントである。


昔から思っていたけど、機内食は予約制にするべし。

あのまずい食事を出されて、フードロスの嫌いなわしは一生懸命食べて、旅先の一食目の味を台無しにする。

食べなければ捨てられるだけ。もったいない。

食中毒は絶対に出せないから火は目一杯通す。美味いわけがない。


う〜む、ビジネスクラスの機内食なんて食べてみたいものだけど。

尤も、慣れてしまうと要らないという気持ちもわかる。「慣れてしま」いたい、という話である。

 

202210月から従来2人体制だったアテンダントは1人体制となり、満席のこの日も1人しかいなかった。1人で捌けるのかと若干不安に思っていたが、そこはプロ、乗客の注文をしっかり暗記し楽々とこなしていた。筆者はまず軽食を頼み、ついでに白ワインも頼んだ。本当はノンアルのスパークリングワインを頼みたかったのだが、それがどうも輸入できず品切れらしいからである。

 

軽食(「リフレッシュメント」という)は洋食を選んだ。左から・ヤリイカとキュウリのハーブ和え・秋鮭とハーブのリエット・エゾ鹿の赤ワイン煮グラチネ・小豆とホイップクリームのモンブランとのこと。恥ずかしながら、意味不明な単語が並んでいる。

リエットとは本来「豚肉の塊」を指す語で、転じてここでは、こう、なんか練り物みたいにぐちゃぐちゃになった感じの料理を意味している。グラチネは、なんかグラタンの正式名称とか親戚とかそういうものらしい。筆者は食の造詣が水溜りのように浅いので、今後社会を渡り歩いていくに際して勉強していかねばと思うところ。グランクラスに学ぶことは多い。

勉強だと思い一口一口丁寧に食べたが、この文章を書いている時点での食事の感想は「美味しかった」のみなので、まだまだ修行が足りないようだ。とにかく美味しかった。文字通りの軽食だが、ワインがあるとつまみに丁度良い。

 

ワインは山形のぶどうを用いている。JR東日本が東北のブランディングに熱心なのは大変素晴らしいことだ。しかし筆者は如何せん酒に弱く、180mlを飲み干したらすっかり上機嫌になってしまった。

暫くするとアテンダントがおかわりを尋ねてくるので、もう酒はいいやと思いりんごジュースを頼んだ。やってきたのは「山形代表」というユニークな名前のジュースで、果汁100%のストレート。非常に美味しかった。なお、筆者は翌日に山形新幹線で新庄に向かったのだが、新庄駅の土産物屋でこのジュースが売っていた。内容量160g160円する。良いものである。これも彼女に買って帰った。良い男である。

 

ジュースを持ってきてもらった折に、グランクラスの「オリジナル商品」について尋ねた。すると、グランクラスに乗車した人のみが購入できるグラスセットがあること、今ここで手渡しをするのではなく郵送用のパンフレットを渡すこと、ぜひ購入を検討して欲しいことを丁寧に説明いただいた。実は筆者はそのことは既に調べ尽くしてあったのだが、へえ〜初めて聞いたというような顔をして聞いたものである。

2個セットで3500円、送料も加えて4400円。グランクラスの刻印も入ってひとつ2200円程度とは、安いのではないか?貰うべきお金は既にグランクラス料金で貰っている、ということだろう。Aセットを頼むこととした。

 

仙台に着く頃には筆者はすっかり出来上がっており、軽率に飲んだことを猛烈に後悔した。しかしまあ、軽食を食べたりジュースを飲んだりしているうちにあっという間に仙台である。盛岡まではあと40分ほど。40分でグランクラスともお別れかと思うと、リクライニングの角度を深くしたくなるものである。

席は非常に上質で、特に良かったのが窓との間に距離があることである。肘掛けが大きく、肘掛けと窓との間に距離がある。おかげで普段見ている車窓とはまた違った雰囲気が味わえた。

 

ちなみに「やまびこ」のグランクラスは東京-盛岡間では所要時間が3時間18分となり、「はやぶさ」より約1時間長く乗ることができる。それでいて、「はやぶさ」よりも料金が800円安い。

筆者も「やまびこ」に乗ろうか検討したが、

・盛岡まで2時間も乗れば満足だろう

・グランクラスで1時間くつろぐより1時間長く快活クラブで寝たい

・他にも行く場所がある

ということから、「やまびこ」は却下した。

しかし、実は「やまびこ」の方が料金が安くなるのは検討当時は知らなかった。知っていれば「やまびこ」に傾いたかもしれない。ともかく、参考にされたい。

 

そうして盛岡駅に着き、グランクラスと涙の別れを告げた。南部杯以来、二週間足らずで舞い戻ってきた盛岡駅で、いわて銀河鉄道に乗り換える。混雑を危惧していたが、空いていてボックスシートを独占できた。これもグランクラスのようなものである。

 

前編東京駅ラウンジ

新幹線秘境駅その1:いわて沼宮内駅

2022年10月27日木曜日

グランクラスをしゃぶり尽くす【前編】(東京駅ラウンジ)

202210月は鉄道開業から150周年ということで、JR東日本管内で新幹線まで含めて乗降自由という偉大なフリーきっぷ「鉄道開業150年記念 JR東日本パス」が発売された。

連続する三日間の切符だが、筆者は授業や卒論が忙しく二日間しか利用できそうにない。が、150周年パスの旅行ブームに乗らないのもまた癪である。そういうわけで、二日間で東北に行くことにした。新潟には競馬を見に行ったし、金沢にも競馬を見に行ったから、他に行くアテは東北方面のみだったからである。

 

しかしながら、困ったことがあった。旅程にはどうしても日曜日を含んでしまうが、この東日本パスの影響で、休日の新幹線が鉄道オタク満載激混み奴隷船と化しているということだ。指定席はパンパンで、知らんオタクと2時間半近く隣に座るのは、筆者としては辛いものがある。再三書いているが、筆者は混雑が大嫌いなのだった。

 

では、グランクラスに乗ってはどうだろうか?と閃いてしまったのだった。

グランクラスに乗ったことは無いから、大分に戻る前に一度乗ってみたい。また、グランクラスのサービスは縮小傾向らしく、いつまでアテンドサービスが残っているか分からない。混雑する指定席を避けられるという点でも、グランクラスに乗るメリットはかなり大きいのではないか。

このように自分を説得しなければならないのは、フリーパスのやや複雑な料金設定が理由である。

普通、グランクラスに乗るには「乗車券運賃」+「新幹線特急料金」+「グランクラス料金」の三階建ての料金が必要となる。

フリーパスは新幹線に乗り放題なので「乗車券運賃」と「新幹線特急料金」が無料になる。しかし、グランクラスに乗る際にはフリーパスは「乗車券運賃」のみ無料となり、「新幹線特急料金」は払う必要が生じる。

つまり、指定席に押し込められれば無料の「新幹線特急料金」を、グランクラスに乗った場合は払わなければならないのである。これは無駄のように思える。

 

しかし、である。今後大分に住む自分が東北新幹線を長距離で乗る機会なんて、はたしてあるだろうか?乗車券代がタダなだけでも充分美味しいのではないか?

こういう逡巡を経て、思い切って乗ることにした。金ねえのに。

そして、グランクラスをしゃぶり尽くすことを決意したのだった。

 

東京―盛岡間の三階建て料金はそれぞれ、

乗車券運賃:8580

新幹線特急料金:5900円(はやぶさ)

グランクラス料金:10640円(はやぶさ)

であった。グランクラス料金に加え、本来は払わなくても良い5900円の特急料金を払い、優雅な旅に出ることとなった。

 

東京駅には745分くらいに着いた。大宮の方が近いのだが、東京駅から乗らねばならない理由があった。それは、東京駅のラウンジを利用できる特権を行使する使命である。東京駅の八重洲中央口にあるビューゴールドラウンジは、グランクラス利用者か、ビューゴールドカードを持ち当日にグリーン車以上に乗る人でなければ入れない、優雅な空間がある。ここをしゃぶり尽くさないと旅は始まらない。

やや早めに着いたのは、NewDaysでご飯の調達をしようと思ったからだ。めざとい筆者は、NewDaysで東日本パスを提示すると10%オフになることを知っていた。せっかくのグランクラスで食べるものなので、ちょっといい物を買いたい。10%オフなら、そんな欲望にも積極的になれるわけだ。有名な「峠の釜飯」のおにぎりなどを買い、452円。通常なら破産確定だが、1割引が効いて406円となり、ギリギリ生存できそうである。

八重洲までの道のりに大いに戸惑いつつ、ビューゴールドラウンジを発見したのが8時ちょうど頃である。ラウンジには列車発車時刻の90分前から入れることになっており、筆者の乗るはやぶさ13号は936分の発車、90分前は86分である。すなわち、5分ほど待つ必要がある。多分受付に行けば入れてくれると思うのだが、筆者はこういう点で「気にしい」である。外を散歩し、時間を潰した。

 

ラウンジは外からはこのように見える。白いカーテンに遮られ、中は見えない。このカーテンは「丸の内の先進性」を表しているらしいが、よく分からない。

 

ようやく6分になったので、意気揚々とラウンジに向かう。時間ちょうどに行くのもなかなか恥ずかしいものではあるが、ラウンジの時間まで待つ行為が既に恥ずかしいものであり、筆者の人生は常に生き恥を晒しているようなものなので、気にせず入る。

 

8時に開いたばかりだからか、中には数名しかいなかった。この日は東日本パスの効果もあってか新幹線は超満員で、筆者の乗るはやぶさも全席予約済みであったので「ラウンジも混雑しているかも」と思っていたが、杞憂に終わったようだ。

二人席に案内してもらい、優雅に時間を過ごす……予定であったが、如何せん落ち着いた空間に慣れていないので「困惑しながら時間が流れる」といった方が正しい様態であった。情けないことである。

 

緑茶をもらい、仕事をしている感じを出しながらこの文章を書いている。最近は旅行中にすぐにブログ記事を書くことが多くなった。移動時間が充実するし、家に「宿題」が残らない。筆者の敬愛する沢木耕太郎氏は、その旅行から10年経って「深夜特急」を書いたという。自分の中に出会った事象を沈潜させる時間が必要ということだろう、若い筆者はそう思いそのスタイルを踏襲してきたが、寝かせるだけ寝かせて書くのが面倒くさくなって書かないことが多かった。どうしようもない人間である。そういうわけで、最近はすぐに書くこととしている。

 

「ゴールドラウンジ」「グランクラス」というくらいだからちょっとしたドレスコードなどもあるかと思ったが、全然そんなことはなく、普段着の人もいた。普段着どころか、全身ピンクのマイメロおじさんでもラウンジに入れていたので、ドレスコードは皆無と言って良いだろう。無駄な緊張感が走ってしまうので、できれば彼は弾いて欲しかったものだが。

 

まだ社会人でないので社会人の金銭感覚は分からないが、下手にグリーン車に乗るくらいなら、グリーン料金からさらに5000円ばかし追加してグランクラスに乗った方がコストパフォーマンスは高いのではないだろうか。

そう思ったが、実際のところこの話はかなり条件付きである。まず東京駅出発でなければラウンジは使えない。ラウンジを使おうが使わまいが料金は不変であるから、使わなければ損である。また、ラウンジなどを使うためには急いでいない必要もある。

そういうわけで、「気軽な優等席」としてのグリーン席というものにも一定の需要はあるのだなと納得した。

 

このラウンジは同伴者も3300円払えば利用できることになっている。つまり、このラウンジには3300円の価値があり、ひいては東京駅発着のグランクラス料金の3300円分はこのラウンジの料金であると言っても過言ではない。

 

そんなラウンジは内装も凝っている。一部の机は特注で、柄は六角形。丸の内北口にあるようなドームをイメージしているとのことであった。

 

また、面白いのが机を横から見た形である。筆者も使ったこの机の形は、線路のレールを表している。

 

読み物として新聞などに加え、JR時刻表があるのが東京駅ラウンジのユニークな点だろう。試みに今から乗る列車を探すと、東京駅への入線時刻まで書いてあった。時刻表を手繰るのはいにしえの18きっぱー時代ぶりであり、なかなかノスタルジーを感じてしまった。

時刻表によればはやぶさの入線は23分ということで、もうそろそろ出ようかと思う。静かに過ごせたし、ブログも進んだ。非常に良い旅の滑り出しである。


後編 はやぶさ

2022年10月17日月曜日

【MCS南部杯】盛岡競馬に行ってきた・その5(最終回)

 その4のつづき

 

払い戻しを済ませ、盛岡競馬場を後にする。今日は見どころが満載で、非常に楽しかった。南部杯の混雑のデメリットよりも、南部杯に湧く雰囲気やレース自体が面白かった。

また来るのなら、平場の日に芝レースを見てみたい。また違った競馬場の姿が見られることだろう。

 

と、ここまでの文章を筆者は帰りのクソ渋滞バスに立ちながら泣きながら打っていたのだった。やっぱり混雑はクソである。というか、渋滞は分かりきっていたのだから、一本遅いバスに乗って座るべきだった。人生最大のミス。

盛岡競馬場が山の中にあるのは先述した。山の中にあるということは、アクセス道路が限られているということである。そして、岩手県民は大体自家用車で競馬場に行く。

これは何を意味するか?競馬場から麓の信号までの3.8km1時間かかることを意味する。歩いた方が速く、幾分健康的だったのではないか。

 

本当は友人に勧められたじゃじゃ麺を食べたかったのだが、渋滞のせいで行けなかった。急げば食べられたとは思うが、とても新たな味を楽しむ心の状態ではなかったということだ。そこには今度水沢に行くときに寄るとして、心休まるチェーン店に行く。

帰りの夜行バスまでは快活クラブで時間を潰す。学割料金だから気軽に使えるが、もう学生じゃなくなるんだなと思うと寂しい。

 

JRバスのドリーム青森・岩手号で東京に戻る。一度三列シートを味わってしまうと、もう四列シートには戻れない。すぐに消灯となり、疲れからすぐに微睡むのであった。

 

以上、今日は始発の新幹線で盛岡まで赴き、9時間競馬場にいて夜行バスで帰るという、競馬観戦でさえ無ければ面接で喋れそうなほど行動力を発揮した。体力があるうちはこのくらい頑張っていきたいところであるし、体力を維持していきたいところだ。

 

余談の余談・盛岡競馬場グルメ

 


巨大焼き鳥 550円 名物らしい 握り拳大



ベーコン焼きそば 400円 無駄のない至上最高の料理で、値段もお手頃。

 

その1 東京〜盛岡競馬場まで

その2 東京競馬場との姉妹提携・メイセイオペラ・陶騎手など

その3 競馬場探検など

その4 南部杯、表彰式

2022年10月15日土曜日

【MCS南部杯】盛岡競馬に行ってきた・その4

 その3のつづき

 

11レースが終わった。最終12レースが本日のメインレース・南部杯である。ファンファーレや表彰式を間近に見たいので、一般席を離れ、ウィナーズサークルの前に陣取る。朝に車で埋め尽くされた駐車場を見たときは辟易したものだが、案外人は少なかった。簡単に最前列を取ることができた。


雨はあがったが、濃霧が発生していた。実際、11レースは濃霧の天候調査の為に発走が遅れ、レース映像もほとんど白一色で見えなかった。競馬オタクの友人からは1996年バイオレッドステークスじゃねえかという鋭いLINEが届いていた。なかなかの分かり手である。12レースは定刻通りらしいが、この時点ではまだ霧が湧いていた。

 

南部杯は正式名称を農林水産大臣賞典マイルチャンピオンシップ南部杯〔Road to JBC〕という。一時期岩手競馬で禁止薬物問題が起こった時には農林水産大臣賞典を返上していたが、現在は戻っている。

 

この日はJRA3日間開催の最終日で、阪神で京都大賞典が行われていた。その様子は遥か盛岡競馬でもターフビジョンで放映され、筆者も隣の兄ちゃんと共にマイティー!!!と叫んだものであった。

 

ともかく、この日は二つの賞典が行われたことを言いたかったのだ。しかし、賞典とはよく分からない言葉である。日本国語大辞典には「賞典レース」という言葉が出ていて、「褒賞のかけられた競走。特に競馬でいう。」とある。

Wikipediaには「農林水産大臣賞典」という項目が立っていて、「正賞や副賞として農林水産大臣が賞を提供する競技や競走に対してつけられる」とある。どうやら、阪神大賞典の賞典も農林水産大臣賞典(農林水産省賞典)らしい。


ともかく、霧が晴れ月が出た盛岡競馬場を南部杯出走馬が走っていく。そういえば競馬場に来たというのに馬の話をほとんどしていなかった。2022年南部杯の有力馬を2頭だけ紹介しよう。


1番人気はカフェファラオ・福永。筆者が現地観戦した本年のフェブラリーS覇者だが、東京専用機との評もある。盛岡と東京のダートマイルはほとんど似たようなものなので、馬に勘違いさせて走らせようというのが陣営の魂胆である。ファラオの勘が鋭いかどうかが鍵となる。


ちなみに、中央競馬にマイル・ダートは東京にしかなく、それも芝発走である。

ダートの芝発走なんてものは、ダートを見下しすぎている。では逆に、芝が内側である盛岡競馬場ではダート発走の芝コースがあるかというと、残念ながらそれは無い。

さらに余談を言えば、南部杯に出るJRA騎手は月曜開催の中央競馬をお休みしている。これは、勝負気配アリ。そういう意味でも、JRA馬は強いのだった。

 

2番人気はアルクトス。馬主の山口氏はTwitterをやっている。今年は南部杯三連覇に挑む。南部杯の為に引退を遅らせた馬、勝負気配は尋常じゃない。

血統がなかなか面白い。父アドマイヤオーラ、その父はアグネスタキオンである。母父はシンボリクリスエスであり、なかなか渋い。

 

その他、大勢。日本の重賞はどれもそうだが、出れるなら出とけという馬が多い。もし筆者が馬主なら、出れるなら出すだろう。

が、海外のレースは少頭数が多い。向こうでは「勝負気配アリ」しか出さないのだ。その点が日本競馬の幼いところとも言え、面白いところとも言えよう。

 

目の前を、先ほど演奏を披露した陸上自衛隊第九師団第九音楽隊の面々が整列して歩いていく。第九師団は北東北を守備する部隊だ。音楽隊の隊員は先ほどは軽快に演奏していたが、やはり本番となると表情から何から締まっている。流石に自衛隊だ、と感じた。

 

スターターが上ると同時に、フライング気味でファンファーレが始まる。盛岡にはJpnⅠ用のファンファーレがあり、実質南部杯専用となっている。筆者は昨年にネットで南部杯を観戦して以来一年間、ぜひ生で聴きたいと思い続け、その一心で単身盛岡まで乗り込んで来たのだった。若干プペったが、気にしない。

 

https://twitter.com/tumu66/status/1579427699252424704?s=20&t=ATpShjS_nI9FfgJY-zGrLQ


盛大な拍手に包まれ、馬券をほとんど購入していない筆者はもう既に満身創痍であったが、しかし、なんかレースが始まった。

私はテキトーにカフェファラオとアルクトスの複勝をいくらか買っていた。四角手前でアルクトスは手応え怪しく、場内には声にならない声が響く。私は一の矢を捨て、全身全霊で二の矢・カフェファラオを応援した。目の前に任務を終えた第九音楽隊の面々が気をつけしていることなど構わず、彼らの頭上を飛び越える声で福永ァァ!!!!と叫んでしまった。大声はダメなのに。ごめんなさい。

 

たかだか200円とかの馬券でここまで熱くなれるのだから、筆者は実に燃費が良い。結局ハナ差で武豊のヘリオスを福永ファラオが差し切り、カフェファラオはGⅠ2連勝となった。複勝はカフェファラオのみ的中し、1番人気ゆえに当然トリガミであった。

 

勝利騎手インタビューに続き、表彰式がある。インタビューにおいては福永騎手が軽妙なトークで観客と筆者を湧かせていた。

 

表彰式に移る。先述の通り、南部杯の名は南部氏による。家紋をレーシングプログラムにまで載せているのだから当然であるが、ちゃんと南部家に許可を貰っている。

南部氏は明治維新まで盛岡藩主であり続けたのち、華族となったが、戦後は資産の多くを手放すこととなった。また子供に恵まれなかったりもしたが、婿嗣子をとることで家を存続させた。

43代の利淳には一男一女がいたが、その長男利貞が早世した。そのため長女の瑞子に迎えた婿が利英であった。利英は元の名前を一條實英といい、当然ながら名家一条家の出身である。戦国時代末期の天皇・後陽成天皇の男系九世子孫だというから、当然血統も抜群であった。


競馬に喩えるのはどうかと思うが、血統は男系(父系)で続くことに意義がある。

言ってしまえば、日本人なら恐らくほとんどの人間が、何某かの天皇の血が一滴くらいは入っているものだ。そのように私は邪推している。奈良・平安時代に臣籍降下した皇族の多さに鑑みれば、1000年のうちに日本全国に血が広まっても不思議ではない、ということである。

しかしながら、それが男系直系であることはまあなく、普通は女系を介してのものである。また、我々にはそれを示す血統書も残っていない。

一方で、一條實英である。彼は男系であるし、歴史にも刻印されている。その点で、我々とは一線を画すやんごとなきお方なのだった。

名家に婿入りする名家とはどのような気持ちなのか、我々には想像もつかない。ともかく實英は婿入りに当たって苗字と共に改名も行い、南部利英を名乗った。「利」の文字は南部家当主が代々継ぐ通字であった。


利英には三男おり、その末っ子が家を継いだ。第45代当主・南部利昭である。この利昭に、岩手県競馬組合が話をつけに行った。役員一同が雁首揃えて行ったのだろうか。どんな話をしたかは不明だが、ともかく南部の名前を使う許可が下りた。

それどころか、南部家当主がレース当日の表彰式に赴き、直々に南部杯を授与することになった。利昭氏、なかなかノリノリである。

利昭氏は靖国神社の宮司を務めたが、その執務中に倒れ、2009年に亡くなった。

跡取りは利昭の甥が務めることとなった。その第46代当主・南部利文氏が、筆者の目の前にいる。場内に一礼をしてから、丁寧に南部杯を手渡していた。

馬主の西川氏は来場していなかったようで、南部杯など馬主が受け取るべきものは全て堀調教師が代理で受け取っていた。自分の馬が1番人気なのに競馬場に来ないでなんで馬主をやっているのだろう、なんかヤな感じである。

まあ、仕事が忙しかったのだろう。馬主をやるなんて人は、本業も忙しいのが常である。始発の新幹線で臨場する筆者みたいな人は、馬主に向いていないということだろう。悔しいことに。

 

その1 東京〜盛岡競馬場まで

その2 東京競馬場との姉妹提携・メイセイオペラ・陶騎手など

その3 競馬場探検など

その5 競馬場からの帰り、グルメ

2022年10月12日水曜日

【MCS南部杯】盛岡競馬に行ってきた・その3

その2のつづき

5レースの終了後、雨も止んできたので競馬場内を散策した。Pakaraという休憩スペースに赴くと、陸上自衛隊第九師団がスペースを占領していた。

無論、クーデタではない。彼らは陸上自衛隊の第九音楽隊であり、南部杯の生ファンファーレのために来て、ついでにPakaraの前で演奏会を行っていた。

吹奏楽演奏は人並に好きであるから、何となく聴いていた。その一曲、ジェームス・ブラウンのなんちゃらという曲が気に入ったため、演奏会のあと曲名を尋ねに行った。危うく自衛官として勧誘されそうになりながら尋ねたところによると、”I Feel Good”という曲らしい。

原曲を聴いたが、やっぱり吹奏楽の方を先に聴いちゃっているので、物足りない。なんとかあの演奏をもう一度聴ければなと、帰りのバスでyoutubeを探すと、まさにその動画がアップされていた。感謝しかない。

以下の動画の8分からである。楽しそうな様子にも注目して、ぜひ聴いてもらいたい。

 

https://youtu.be/8DnX73rEcMo?t=482

 

現地には子供連れも多くいた。思ったことは、楽しそうに何かに取り組む大人の姿を子供に見せることが大切なんだろうな、ということである。自分が父親になったらば、楽しそうに競馬をし、楽しそうに読書をし、楽しそうに家事をしよう、とか思った。

 

そののち、第4コーナー付近まで見学に行った。奥にはポケットがあり、ここが2000mのスタート地点である。直近ではダービーグランプリに使われているが、施行数は少ないようである。

 

余談ながら、盛岡競馬場の全周は1600mである。普通、全周1600mの競馬場では1600m戦は施行できない。ゴール地点からスタートすることになり、すぐにコーナーがあるからだ。

 

盛岡競馬場は2コーナーの奥に400mの引き込み線を作ることで、この問題を解決した。とんでもない山の中にあるがゆえの大胆な発想である。スタートが非常に見えにくいという問題はあるものの、この引き込み線で「マイルチャンピオンシップ」を守ったのだった。

 

また、第4コーナー付近には南部杯中継用の三脚が設置してあった。こんなひ弱な設備で生中継しているとは、驚愕した。

このカメラで撮られたのが、次の動画の2:25からである。


https://youtu.be/BlhnLb1_0Nw?t=146



基本的なことであるが、盛岡競馬場には芝コースがある。これは地方競馬場では唯一である。

もっとも、地方競馬ではあくまでダートが主。芝は従だ。よって、盛岡競馬場は日本の競馬場で唯一、芝の方が内側にある。脇役がいつも内側に置かれるのは、外から芝→ダート→障害の順番である中央競馬場から推して知るべし、である。

芝のレースはあって一日1レース程度であり、この日は無かった。南部杯デーなんだから色んなレースをしてくれたら良いのにと思う。しかし、芝の保守というのは大変なのだろう。

 

余談を重ねると、先に「地方競馬場では唯一」と述べたのは、地方競馬としての芝開催は他に例があるからである。コアな競馬ファンの諸兄にはお分かりだろうが、これは名古屋競馬のことだ。名古屋競馬は2002年まで年に1開催ほど、中京競馬場でもレースを施行していた。ターフチャンピオンシップなど、芝の重賞競走も行われていたのだ。現在でも愛知県競馬組合は中京競馬場での開催権を保持し続けているが、この辺の事情はホッカイドウ競馬と似ている。

もっとも、筆者は名古屋競馬にも中京競馬場にも行ったことはない。

 

さて、ウロウロしていると第6レースの出走馬が返し馬をしている。

馬の足音が大きい。ダートの不良馬場ではこんな音がするのか。地方競馬経験が浅く、中央競馬ではダートが遠いために音が聞こえていなかった。驚いた。

 

返し馬が続く。4コーナー付近には僕しかいないので、なんとなく気まずい。しかしジョッキーは全然意識していないようで、高橋騎手と南郷騎手なんかは、お喋りしながら返し馬をしていた。どうも南郷騎手の馬は癖馬らしく、操縦に苦労しながらのお喋りだった。蛇足ながら、結果は高橋騎手が1着、南郷騎手が最下位であった。

 

「返し馬」は、日本国語大辞典に出ている。「競馬で、レース前、本馬場に出てきた競走馬が、足ならしをすること。」とある。

ブルーバックスという、科学に特化したシリーズが講談社から出ている。そのひとつに日本中央競馬会競走馬総合研究所『サラブレッドの科学 競走馬の心・技・体』というのがあり、これが大学図書館にあった。試みにページを手繰ると、返し馬の項がある。

これによれば、返し馬には二つの目的があるという。ひとつはアイドリング、もうひとつはランナーズ・ハイである。

1ハロン20秒くらいで4,5ハロン走ることにより、馬の温度は約1度上昇し、血液循環が促進される。また、パドックでぎこちなくコズミ(強い運動を課せられたことで、歩行がぎこちなくなること)と思われる馬でも、適度な返し馬によってコズミが解消される。これがアイドリングの効能である。

精神面にも良い影響があると考えられている。不安が消え、気合が乗ってくる。

上手い騎手とは、返し馬が上手い騎手なのかもしれない。馬のことを知り尽くした厩務員や厩舎の人間は、本馬場に入れば見守るしかない。その際に、馬をよく観察し心を通わせ、また厩舎と円滑な情報共有を行うことで適切な返し馬を施す騎手。そういう騎手を応援したいものだが、しかしそういう騎手を見抜けないのが、一ファンに過ぎない我々の辛いところである。

 

レースは続いていく。しかし、盛岡競馬場は割と堪能し尽くしたので、随分暇だ。朝買った馬券は尽く当たらず、買い増す気にもなれない。

地方競馬はわからないので、番号でテキトーに6番の複勝馬券を買った。第7レースから第11レースまで5レースを勝負して、4着→11着→9着→9着→10着。まったく6番は死に枠だった。

 

とにかく、レース以外は暇である。そもそも、なぜこの文章は常体(である調)なのか。普段は敬体(ですます調)で書いている、気がする。

たまにこういうことはある。筆者は、これはきっとその時の気分のせいに違いないと思っていたのだが、ようやく原因が分かった。その時に読んでいる本の影響を受けているのであった。私は単純な男であった。

 

その1 東京盛岡競馬場まで

その2 東京競馬場との姉妹提携メイセイオペラ騎手など

その4 南部杯

その5 競馬場からの帰り、グルメ