2022年10月29日土曜日

グランクラスをしゃぶり尽くす【後編】(はやぶさ)

25分頃に新幹線乗り場に着いたが、はやぶさはまだ清掃中であった。ラウンジで「清掃の時間が長い」と嘆いている夫妻がいたが、まさにその通りであった。ようやく入れたのは発車時刻の4分前くらいだっただろうか。

はやぶさの先頭車両10号車、グランクラスのマークが輝く車両に乗り込む。多分筆者は澄ました顔をしていたことだろう。重厚なドアを二つ抜けると、18席の至高の空間が現れる。JRのホームページでは「“18人のお客さまだけに用意された、特別なおもてなし」と、18という数字をやたら強調している。18という数字にはあまり良いイメージはないものの、とにかく少なく上質なサービスが受けられるということである。E5系グリーン車の定員が55名だから、その半分よりもっと少ないのだ。

 

この日のはやぶさは満員で、その18席も全て埋まっていた。が、皆が東京から乗ってくるわけでもなく、この時点では8席ほど空いていたように思う。ちなみに余談だが、グランクラスでは使用後の座席に後から乗る客は座らないようになっているとのこと。流石は新幹線のファーストクラスである。

 

席は当然のように1+2列の方式で、筆者は一人旅のため一列の席を選んだ。はやぶさのE5系は指定席が2+3列、グリーン席が2+2列のため、一列の座席というのはグランクラスにしかない。満員だから、一人旅でグリーン以下に乗ると必ず誰かと隣り合わせになってしまう。一人旅で一列に座ってこそ、グランクラスの効用も高まるのだ。

 

座席自体も非常に快適。倒しても後ろの人に迷惑がかからない方式であり、43.6度のリクライニングを最大限に発揮できる。また、レッグレストまで電動で動くようになっているのは驚いた。

テーブルは前の座席に付いているのではなく、特急ソニックのように脇から取り出す仕様。これが案外困りもので、後述するようにグランクラスでは軽食や飲み放題のドリンクが楽しめることから、常に机を展開することになる。それゆえに、出入りやカバンを取るなどの前後の所作にかなり制限が加わるのだ。尤も、ドリンク用の小さいテーブルも用意はしてあるのだが、使い勝手が悪い。

 

そんなちょっとしたデメリットに余りあるサービスを施されることになる。出発後すぐにアテンダントさんが挨拶に来て、ウェルカムセットをくれる。筆者は最前列に座っていたので、一番初めに貰えて嬉しい。中身はミネラルウォーターと肉厚なお手拭き、そしておつまみの「しおちょこ」の三つ。

さらに茶菓子もあるのだが、これはフードロス削減のためにアテンダントに言わなければ出てこない仕様となっている。当然ながらお願いして出してもらう。「しおちょこ」と茶菓子のパウンドケーキは都合で同行できなかった彼女へのお土産とした。

それにしても、「SDGsなんて辛気臭いこと言わず、黙っていても持ってきて貰いたいなあ」と思うのは、貧乏人ゆえの思考だろうか。

「ニシノ」「セイウン」等の馬主である西山氏はTwitterをやっておられ、非常に面白く拝見させていただいているが、こんなことを仰っていた。ビジネスクラス機内食がデパートで販売される旨のニュースに対するコメントである。


昔から思っていたけど、機内食は予約制にするべし。

あのまずい食事を出されて、フードロスの嫌いなわしは一生懸命食べて、旅先の一食目の味を台無しにする。

食べなければ捨てられるだけ。もったいない。

食中毒は絶対に出せないから火は目一杯通す。美味いわけがない。


う〜む、ビジネスクラスの機内食なんて食べてみたいものだけど。

尤も、慣れてしまうと要らないという気持ちもわかる。「慣れてしま」いたい、という話である。

 

202210月から従来2人体制だったアテンダントは1人体制となり、満席のこの日も1人しかいなかった。1人で捌けるのかと若干不安に思っていたが、そこはプロ、乗客の注文をしっかり暗記し楽々とこなしていた。筆者はまず軽食を頼み、ついでに白ワインも頼んだ。本当はノンアルのスパークリングワインを頼みたかったのだが、それがどうも輸入できず品切れらしいからである。

 

軽食(「リフレッシュメント」という)は洋食を選んだ。左から・ヤリイカとキュウリのハーブ和え・秋鮭とハーブのリエット・エゾ鹿の赤ワイン煮グラチネ・小豆とホイップクリームのモンブランとのこと。恥ずかしながら、意味不明な単語が並んでいる。

リエットとは本来「豚肉の塊」を指す語で、転じてここでは、こう、なんか練り物みたいにぐちゃぐちゃになった感じの料理を意味している。グラチネは、なんかグラタンの正式名称とか親戚とかそういうものらしい。筆者は食の造詣が水溜りのように浅いので、今後社会を渡り歩いていくに際して勉強していかねばと思うところ。グランクラスに学ぶことは多い。

勉強だと思い一口一口丁寧に食べたが、この文章を書いている時点での食事の感想は「美味しかった」のみなので、まだまだ修行が足りないようだ。とにかく美味しかった。文字通りの軽食だが、ワインがあるとつまみに丁度良い。

 

ワインは山形のぶどうを用いている。JR東日本が東北のブランディングに熱心なのは大変素晴らしいことだ。しかし筆者は如何せん酒に弱く、180mlを飲み干したらすっかり上機嫌になってしまった。

暫くするとアテンダントがおかわりを尋ねてくるので、もう酒はいいやと思いりんごジュースを頼んだ。やってきたのは「山形代表」というユニークな名前のジュースで、果汁100%のストレート。非常に美味しかった。なお、筆者は翌日に山形新幹線で新庄に向かったのだが、新庄駅の土産物屋でこのジュースが売っていた。内容量160g160円する。良いものである。これも彼女に買って帰った。良い男である。

 

ジュースを持ってきてもらった折に、グランクラスの「オリジナル商品」について尋ねた。すると、グランクラスに乗車した人のみが購入できるグラスセットがあること、今ここで手渡しをするのではなく郵送用のパンフレットを渡すこと、ぜひ購入を検討して欲しいことを丁寧に説明いただいた。実は筆者はそのことは既に調べ尽くしてあったのだが、へえ〜初めて聞いたというような顔をして聞いたものである。

2個セットで3500円、送料も加えて4400円。グランクラスの刻印も入ってひとつ2200円程度とは、安いのではないか?貰うべきお金は既にグランクラス料金で貰っている、ということだろう。Aセットを頼むこととした。

 

仙台に着く頃には筆者はすっかり出来上がっており、軽率に飲んだことを猛烈に後悔した。しかしまあ、軽食を食べたりジュースを飲んだりしているうちにあっという間に仙台である。盛岡まではあと40分ほど。40分でグランクラスともお別れかと思うと、リクライニングの角度を深くしたくなるものである。

席は非常に上質で、特に良かったのが窓との間に距離があることである。肘掛けが大きく、肘掛けと窓との間に距離がある。おかげで普段見ている車窓とはまた違った雰囲気が味わえた。

 

ちなみに「やまびこ」のグランクラスは東京-盛岡間では所要時間が3時間18分となり、「はやぶさ」より約1時間長く乗ることができる。それでいて、「はやぶさ」よりも料金が800円安い。

筆者も「やまびこ」に乗ろうか検討したが、

・盛岡まで2時間も乗れば満足だろう

・グランクラスで1時間くつろぐより1時間長く快活クラブで寝たい

・他にも行く場所がある

ということから、「やまびこ」は却下した。

しかし、実は「やまびこ」の方が料金が安くなるのは検討当時は知らなかった。知っていれば「やまびこ」に傾いたかもしれない。ともかく、参考にされたい。

 

そうして盛岡駅に着き、グランクラスと涙の別れを告げた。南部杯以来、二週間足らずで舞い戻ってきた盛岡駅で、いわて銀河鉄道に乗り換える。混雑を危惧していたが、空いていてボックスシートを独占できた。これもグランクラスのようなものである。

 

前編東京駅ラウンジ

新幹線秘境駅その1:いわて沼宮内駅

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