2022年4月3日日曜日

ヤンヤンって映画があるんだよ

ヤンヤンって映画があるんだよ。お前は知らないかもしれないがな。

渋谷の文化村で観たんだよ。ル・シネマなんて言ったな。渋谷で映画を観る。東京人っぽいだろう。東京人なんだな、これが。

僕は田舎から東京に出てきた。それはもうハングリー精神マシマシよ。ニンニクアブラよ。そんで初めに入ったのが三鷹寮、なんて話は何回もしたな。三鷹寮の周りはもう地元と変わらねえ。三鷹寮周辺の四天王は釣具屋・タイヤ屋・ゴルフ屋・かっぱ寿司よ。落ち着くったらありゃしないね。

そんで、駅まで四十分歩いて、井の頭線に乗るわけだ。久我山までの道は未だに鮮明に覚えてるな。授業受けて疲れて徒歩四十分。夜中までバイトして徒歩四十分。思い出にならなきゃ嘘だね。ずーっとオードリーのオールナイトニッポン聴いて歩いてたよ。今思えば、何が面白かったのか分かんないけどな。

まぁ、三鷹寮は悪くはなかったよ。久我山までの道にはスーパーとブックオフがあった。こりゃ便利だったね。僕と僕の母はブックオフ・マニアなんだ。両親は一年間だけ岩手に住んでたんだけど、その一年で母親は東北全県のブックオフを制覇してたね。いわゆるみちのくブックオフ行脚ってやつだ。青森にも行ってるから、松尾芭蕉超えだ。まぁ、買ってる本は全部BL漫画なんだけどな。

本題に戻ろう。三鷹寮は悪くはなかったんだ。家賃一万円だし。ただ、この家賃一万円ってのが曲者なんだ。例えば、家賃五万円を親に負担してもらい、五万円の仕送りを貰ったとしよう。自分の手元には五万円残るよな。じゃあ、家賃一万円だったら自分の手元にはいくら残る?これが、五万円のままなんだな。残りの四万円は220円のBL漫画200冊になるんだ。これ、結構キツイぜ。貰えるだけ充分?人間、そんなふうに考えられるほど慈しみ深くできてねえんだよ。ムカつくかもしれないけどさ。

だから、自分単位では三鷹寮に住むことは何のメリットもないんだよ。そりゃ24時間365日いつでもゴミを捨て放題なのは便利だった。でも、四十分歩けるほどじゃないんだよな。

だから豊島区に引っ越した。親に泣きつき、家賃五万よ。その分多少は仕送りを減らされたが、まぁ生活は豊かになったね。なにせ、徒歩五分だ。まぁ程なくオンライン授業になったから、三鷹寮にいても徒歩四十分はあまり関係なかったかもしれねえ。ただ、あの13平米の部屋に毎日閉じこもってたら、自殺したっておかしくないね。自殺しやすい雰囲気なんだな、三鷹寮ってのは。

そんでめでたく豊島区民になったわけだ。華の二十三区民よ。多摩とは違うんだよ、多摩とは。

原付を取ると、豊島区ナンバーになるわけだよ。豊島区ナンバーで全国を駆け巡ったんだ。地元の人に「トヨシマ?」って言われながらな。一応大分出身と言うのは欠かさない。だけど、心の中ではちょっと思ってんだな。東京人だぞって。浅はかな春の日だったね。

鹿児島の甑島に行ってたんだ。船で二時間くらいだっけな。いい島だった。地元の子供は大きな声で挨拶するし、魚は美味い。甑島をツーリングしてたら、いつものように地元に人に声をかけられるわけだ。「トシマクのどの辺ですか」ってね。おお、読めるじゃん。豊島区について尋ねられたら、僕はいつもこう言うようにしてたんだ。「池袋です。」ってね。まぁ地下鉄で数駅だし、池袋は僕の庭と言っても過言ではない。乗り換えで未だに迷うがな。そしたら地元の夫婦が言うんだよ。「私たちも昔、豊島区に住んでたんですよ」ってな。

こりゃ恥ずかしかったね。そんなトラップがあるかい。やむなく正直に駅名を言ってな。そしたら夫婦が言うんだ。「私たちは池袋本町のあたりでした。」僕の負けだよ。池袋本町がどこにあるのかは知らねえ。けど、僕よりも池袋なことだけは分かる。逃げるように、逃げたね。原付だから大したスピードは出ねぇけど。池袋ジャンケンで負けることがあるとは思わなかったよ。

それでも、僕は池袋に住んでんだよ。当然都心が近い。文化が近い。ここで、かつての恩師の言葉が思い出されるんだな。「東京にいるうちに、東京でしかできないことをやりなさい。」全くだよ。十個しか歳が違わねえ恩師だけど、説得力がある。なんせ、僕らが卒業した後すぐ、先生はクソ田舎に飛ばされたんだ。クソ田舎に文化なんて無え。説得力の塊だよ。呪詛かと思ったね。

だから、ヤンヤンを観たんだよ。渋谷の文化村ル・シネマでな。いい映画だった。いっぱい映画を観たけど、屈指の作品だな。お前が何の映画を好きなのかは知らねえけど、人に勧められる映画ができるといいな。

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