その2では山域名称の区別について確認した。それを踏まえ、今回は山域の呼び方に迫っていく。
Japanknowledge含むネット上で調べたところ、それぞれの文献が次の言葉を使っていた。
『角川日本地名大辞典』:「樅木山脈」「樅木山地」「樅木山塊」
『日本歴史地名大系』:「樅木山地」また上位概念として「佐賀関山地」
『大分百科事典』:「樅木山系」「九六位山系」(信憑性に疑問)
『日本大百科全書』:「樅木山地」
「土地条件調査解説書「大分地区」」:「佐賀関山地」
これを言葉ごとに分類すると、次のようになる。
「樅木山地」:『日本歴史地名大系』『角川日本地名大辞典』『日本大百科全書』
「樅木山脈」:『角川日本地名大辞典』
「樅木山系」:『大分百科事典』
「九六位山系」:『大分百科事典』
「佐賀関山地」:『日本歴史地名大系』「土地条件調査解説書「大分地区」」
多数派は「樅木山地」と「佐賀関山地」のようだ。
ところで、目を引くのは土地条件調査解説書「大分地区」である。国土地理院が発行したものだが、「佐賀関山地」の言葉の出典は「大分県(1978):5万分の1土地分類基本調査「大分・佐賀関」,国土調査,59p.」らしい。
あ〜あ、また国会図書館に行かなきゃならんのかと思っていたところ、なんとネット上に色々あった。
国土調査(土地分類調査・水調査)
ざっと見たところ、次の4点が該当する。
・5万分の1土地分類基本調査「大分・佐賀関」:「佐賀関山地」
・5万分の1土地分類基本調査「臼杵」:「佐賀関山地」
・5万分の1土地分類基本調査「犬飼」:「九六位山地」
・20万分の1土地分類基本調査「大分」:「佐賀関山地」
20万分の1土地分類基本調査「大分」
I -C2とある範囲が「佐賀関山地」
竹中の方まで含む。かなり広い。
犬飼だけ少しフォーマットが異なり、端に少しだけある山地を「九六位山地」としている。「九六位山地」は「佐賀関山地」の下位分類と見るのが自然だろう。
ちなみに「樅木山地」と「佐賀関山地」が異なる概念であることは自明である。
「樅木山地」について、多くの事典が主峰(その連山の中で最も高い山)を484mの樅木山としている。
しかしながら、「佐賀関山地」に含まれる白山は標高が523.4mある。つまり、「佐賀関山地」の主峰は白山である。
よって、樅木山地は佐賀関山地の下位概念である。
以上から、次のようにまとめられるだろう。
佐賀関半島の山域全体を「佐賀関山地」と呼ぶ。
「佐賀関山地」は東西で東の「樅木山地」と西の「九六位山地」に分かれる。
東部について分水嶺を特に指す場合に「樅木山脈」と呼ぶ。
西部についても同様に分水嶺を「九六位山脈」と呼べるが、使用例は見当たらなかった。
(転載は自由です)
海域名称はきちんと定義があるのだが山域名称はないためなかなか曖昧だが、このように結論づけたい。
その4以降で考えることを適当に列挙してみる。
・「佐賀関山地」が「佐賀関」地域に比べて広すぎる件
・樅木山地と九六位山地の別れ目はどこか。(御所峠あたりかと推測する)
・景色と山の名前
資料編
初版『角川日本地名大辞典』
「佐賀関町」立地(p.1063)
「樅ノ木山を主峰とする山脈が、やや南にかたよりをみせながら半島を背骨のように」
「一尺屋」
「佐賀関(さがのせき)半島の分水嶺樅木山脈の東南部,豊後水道に面した臼杵(うすき)湾岸の一部で,佐賀関寄りの地域。」
「河内村」
「樅木山脈から北流する湊川の中流域の狭隘な谷間に位置する。」
「木佐上」
「佐賀関(さがのせき)半島の分水嶺樅木(もみのき)山脈から北流する小猫(こねこ)川の上・中流域に位置し,東西南を低山地に囲まれた地域。」
「神馬木村」
「佐賀関(さがのせき)半島の付根,樅木(もみのき)山脈の北側に位置する。」
「子猫川」
「大分市木佐上(きさがみ)の樅木(もみのき)山地に源を発し,」
「志生木川」
「樅木山地に源を発し」
「別府湾」
「神崎(こうざき)から地蔵崎(じぞうざき)までの海岸は,佐賀関半島を形成する三波川帯結晶片岩からなる樅木(もみき)山塊の分離丘陵がせまる岩石海岸で,20~30mの海食崖をなす。」
その他「樅木分水嶺」
『日本歴史地名大系』
「佐賀関町」
「半島のやや南寄りに樅木山(四八四メートル)を主峰とする樅木山地が東北東から西南西へ背骨状に走り分水嶺をなす。」
「一尺屋」
「西は樅木山に連なる山地」
「臼杵市」
「北は樅木山から九六位山へと続く佐賀関山地」
「大志生木村」
「志生木川は樅木山地に水源を発し」
「神崎村」
「大平村の西、樅木山地の北側にあって別府湾に臨み」
『日本大百科全書』
「佐賀関半島」(兼子俊一)
「おもに、蛇紋岩を伴う三波川結晶片岩からなる、標高300~400メートルの樅木山地の地塁」
『大分百科事典』
「佐賀関半島」(山田栄)(p.327)
「樅木山を主峰とする樅木山系が分水嶺をなしている」
「九六位峠」(山田栄)(p.243)
「藩政時代に九六位山系越えとして」
国土地理院「土地条件調査解説書「大分地区」」(2010年)
佐賀関山地は九六位山(標高 451.7m:調査地域外)等を含む三波川変成岩からなる山地で、調査地域の南東端に山地の一部が位置します。山地は全体的には開析が進み、壮年期の山地地形を呈しています。
坂ノ市と臼杵を分かつ山々の名前は何か・目次