乗っている列車の終点は「いわて沼宮内」駅である。
沼宮内は「ぬまくない」と読む。東北新幹線の停車駅でもあるが、乗降客数が東北新幹線ワーストの新幹線駅でもある。今回の新幹線秘境駅巡りの旅の最初にして、ラスボスの登場であった。
2019年度の利用者は一日平均で67人とある。文字通り、他の駅とは桁が違う。どんなに少なくても500人くらいはいるものだ。利用者が少ないのは、人口規模や、隣駅の盛岡駅の方が色々と便利なことによる。
一方で、銀河鉄道の方のいわて沼宮内駅の利用者は約700人と、それなりにいる。これも盛岡が近いことが原因で、盛岡市内への通学需要があるらしい。それと裏返しで、沼宮内高校は万年定員割れが続いているらしい。盛岡の影響を一身に受けてしまう、「郊外の町」の宿命であろう。
ともかく、1993年以降は定期優等列車の停車がなかったような駅に、新幹線という日本の鉄道の最高レベルのものが停まっていることが面白い。
この駅は、かつては「沼河内駅」といった。新幹線駅となった際に、沼宮内駅の所在地が「岩手町」であることを強調するために「いわて」を付けたという。
つまり「いわて沼宮内」の「いわて」は「岩手県」の「いわて」ではなく、「岩手町」の「いわて」ということだ。
岩手町。もちろん岩手県の県庁所在地ではない。都道府県名を冠する地方公共団体が「町」なのは、九州に生まれ育った人間には不思議な感覚である。九州各県はすべて「県庁所在地=最大都市=都道府県名を冠する市」である。岩手町は、感覚としては沖縄県沖縄市が近いか。
そんな岩手町はグラウンドホッケーと彫刻に力を入れている。ホッケー場は遠いが、彫刻作品が屋外展示されている道の駅が近くにあるというので歩いてみた。
知らない田舎町を無心で歩くことほど、贅沢なことはない。
駅の目の前には北上川が流れている。解説の看板には、「きたかみ」は『日本書紀』に登場する東方の国「日高見国」に由来するのではないかと記されていた。
日本古代史を専攻する筆者には非常に面白い話である。古代の日本は、中国が周りの野蛮な国の中心・中華として繁栄している様子に憧れ、日本の周りにあえて「野蛮な国」を創作して、中華っぽく振る舞うという猿山の大将ムーブを行なっていた。ひとつが九州南方の隼人であり、いまひとつがこの「日高見国」であろうということだ。
1キロほど歩くと、彫刻の丘が見えてきた。
丘からは町の様子や新幹線の高架が見える。新幹線駅が町を見下ろすようにある。町の人々はさぞ誇りに思っていることだろう。
道の駅は日曜日ということもあってかなり賑わっており、人がちゃんといることに安心した。何か食べようかと思ったが並ぶほどであったから、何もせず駅まで戻る。
駅に着くと、ちょうど東京行きの新幹線が停車したところだった。改札の前で何人降りるか数えてみたが、一般の利用と思われる方は一人しかいなかった。他はもうあからさまに鉄道オタク、つまり筆者の仲間たちであった。
自動改札機が二つ設置してあるのが、なんとも虚しい。年末年始とお盆にはかなり賑わうだろうけど。
七戸十和田駅
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