2021年10月20日水曜日

遠流ソロキャン

迂闊にも『天国の島』に迷い込んだ僕がやっと本土へ戻った頃には、なんと外の世界は数百年が経過しており、その島が実は光速で移動していたことを知ったのだった......という話ではなく、島で不慣れなソロキャンをしたら帰れなくなったという話です。


天売島。
北海道の島、というとなんとなくプーチンが上陸していそうですが、それはオホーツク海側の話。天売島は日本海側に浮かぶ小さな島です。
2021年の夏、暇を持て余した学生たる自分は「原付で北海道を一周しなければ、よい大人になれない」をモットーに、苫小牧に上陸したのち脇目もふらず札幌競馬場を経由しつつ北海道一周を試みました。
「じゃあなんで島なんかに行っているんだ、脇目もいいところではないか」と仰るのはごもっともですが、実は天売島とは因縁があったのです。昔むかし、2019年年末、大学一回生の頃に北海道鉄道旅行を敢行したのですが、その際いたいけな僕は天売島にも行こうと旅館に電話をかけたのです。が、「冬場はやってないんだよね。フェリーも大体欠航するし、夏の方がいいよ」と無下にも程があるくらい無下に断られました。『雪にまみれた最果ての島』が良いのではないか!欠航上等!なんて思いましたが、旅行中に旅行直後の中国語試験の勉強をする程には予定が詰まっていた情けない男でしたので、その際は断念しました。
今回は「ならば夏に来たぞ!」ということです。「天売島リベンジ」ということです。
前述しましたし後述もしますが、夏でもフェリーは欠航します。


羽幌港からおよそ2時間、焼尻島を経由して天売島に向かいます。僕は船酔いをしたことがなかったのですが、なにせ風と波を遮るものがない外海・日本海を小さいフェリーで向かうわけですから、初めて死ぬほど船酔いしました。当時の僕に出来たことは、ただ情けなく床に身体を密着させるようにして寝転び、早く着いてくれと祈るのみ。その姿は下等生物でした。
着いた頃には感動はなく、「この地獄、帰りもあるのか......」とげっそりとした僕。それでも天売島の空は美しく、その空だけでもまぁ来た甲斐はあったかなと思いました。

天売島は『天国の島』です。というのも、かつてこの地に赴任した中学校教諭の佐藤博昭氏が、この島を題材として『天国の島』という曲を作ったそうです。なかなか荒々しい曲でした。ですから、天売島をそう形容することについて「天は分かるけど売はどこに行った」などという野暮なクレームは佐藤氏に送るように。とはいえ、佐藤氏も単に「名前に天が入ってるから、天国の島で!笑」なんてノリではもちろんなく、この島に住まう子供たちの牧歌的な様子や、ウミガラスの国内唯一の繁殖地として海鳥の楽園となっている自然を踏まえてのタイトルでしょう。僕もそう感じました。

さて、ソロキャンです。本土のキャンプ場は緊急事態宣言下ということで大概閉鎖されていましたが、そこは島、おおらかなもので、全然開いているとのことでした。旅人としても、旅館で人と会うよりは接触が避けられるだろうということでキャンプを選択。慣れないソロキャンが始まりました。
キャンプ、どうやら薪が必要らしいという裏情報を聞いたため、留萌のホームセンターで箱買いして来ました。港で受付をし(使用料500円)、丘の上のサイトに設営。さぁ火をつけようという段になって、着火剤が無いことに気付きました。終わった。

今までは友人と一緒で、面倒なことは大概友人がやってくれていたため、一人で何もできない男が生まれました。はてさてどうしよう。着火剤は紙で良いとネットにあったため、今思えば薪の入ったダンボールをちぎって使えばよかったのですが、当時は頭が回らず、貰ったばかりの『天売島観光ガイドマップ』を即刻炙ることでなんとか点火しました。紙の材質が悪かったのか、やけに火が化学的な緑色だった件は気にしないでおきましょう。


薪を割り、焼肉を焼き、一人酒。非常に優雅な時間です。周りに何もない島ですから、星空がとても綺麗に見え、文字通り天を仰ぎました。そして、テントで寝たわけです。

午前3時。爆裂な土砂降りで叩き起こされました。それだけなら良いのですが、雷まで鳴っている。空に開けたキャンプ場、雷がテントに落ちたら死んじゃいます。慌ててスマホだけ持って屋根のある場所に逃げ、結局寝れずに朝を迎えました。

すると、防災無線から定時放送が!羽幌フェリー、朝の便欠航決定!困りましたが、夕方の便は流石に乗れるだろうと思い込んでおり、友人に手紙を書いたり、アマプラで映画を見たりしました。そして12時に放送!欠航!ボケ!


泣きながら港のフェリーターミナルに駆け込み、せめて宿に泊めてくれと受付の人に泣きついて、どうにか崖の上の旅館に泊めてもらいました。優しい宿のお婆さん三人に囲まれ、ご飯はいらないと言ったのに夜と朝におにぎりを持ってきてくれました。もっとも、僕は島の商店で買った酒とカップ麺で豪遊していましたので、幾分気まずかったですが。

碌に寝れていなかったので、昼間から酒を入れて爆睡。起きたら21時頃でした。宿は静かで、時たま窓が光るので外を覗くと、灯台がライトを回していました。窓を開けると潮騒が聴こえます。散々な目にこれまで遭いましたが、まぁその分の旅情はお釣りが要るほど貰ったかなと思いました。

帰りもめちゃくちゃ酔いました。




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