2025年4月11日金曜日

植民地切手の研究 概論とイタリア

 「切手は、小さな紙片である。だがこの紙片は、時にその国の内なる思想を我々に語りかける。特にそれが植民地切手である場合、その国家がどのように自らの姿を世界に示そうとしたのかを、わずか数センチ四方に見ることができる。」


植民地切手(しょくみんちきって、英: Colonial postage stamps)とは、帝国主義時代において、欧米列強(イギリス、フランス、イタリア、ポルトガル、ドイツ、ベルギーなど)が自国の植民地で発行した郵便切手のことを指す。これらの切手は、植民地の行政機関または宗主国の郵政機関によって発行され、宗主国の権威や文化、または現地の風景・民族などがデザインに反映されることが多い。


歴史

ポルトガル領アンゴラ・大統領訪問記念切手(1954年)No.403
当時のポルトガル「海外州」が着色されている。

世界初の植民地切手は、イギリス領モーリシャスで発行されたものであり、いわゆる「ブルー・モーリシャス」として知られている。この切手は、現在においても世界で最も価値の高い切手の一つとされている。その後、帝国主義の拡大に伴い、植民地切手の種類と数も増加していった。

植民地切手の発行には、地域ごとに異なる通貨制度の存在が影響している。各植民地での通貨単位に対応する必要があるため、統一された切手の使用は困難であり、現地に適応した額面とデザインの切手が求められた。また、本国と植民地間で共通の切手を使用することは、物価差や為替の問題から経済的損失を引き起こす可能性もあった。

このような事情から、植民地では本国とは異なる意匠の切手が発行されるのが一般的であり、多くの場合、切手には植民地の地名が記されていた。例としては「モーリシャス」や「インド」などが挙げられる。

特筆すべきは、切手における“Colony”表記の用例である。これは、各宗主国によって異なっており、以下のような傾向が見られる。


イタリア:多数の使用例あり。

フランス:多数の使用例あり(植民地共通切手なども含む)。

スペイン:一定数の使用例が見られる。

ポルトガル:一定数の使用例があるが、貨幣に比べると少ない。

イギリス:使用例は少数(例:オレンジ川植民地、アデン)。

オランダ:使用例は少数(例:キュラソー、スリナム)。

ベルギー:基本的に使用例は見られない。

日本・アメリカ・ドイツ・デンマーク:使用例は確認されていない。


特にポルトガルは、貨幣において「COLONIA」の表記が多用されているにもかかわらず、切手ではその使用が限定的である点が注目される。



イタリアにおける植民地切手


イタリア領エリトリア・20セント切手(1928年)No.128
加刷処理が見どころ。
肖像のヴィットーリオ・エマヌエーレ3世は世界有数のコインコレクターとして知られる。

イタリア植民地帝国は、いわゆる「後発帝国主義国」として分類される。ドイツ、日本とともに、列強の中では比較的遅れて植民地政策を展開した国家である。イタリアは地中海を「我らが海(Mare Nostrum)」と称し、特に東アフリカにおいて、現在のリビア、ソマリア、エチオピアなどに植民地を拡大した。

イタリアが発行した植民地切手には、“COLONIA”(あるいは"COLONIE")という表記が頻繁に見られる。これは切手の図案のみならず、加刷(既存の切手に新たな文字や額面を印刷する処理)にも見られる特徴である。

このような傾向の背景には、イタリアにおけるナショナリズムとコロニアリズムの結びつきが指摘される。イタリアは19世紀中葉に統一を果たした新興国家であり、国民的アイデンティティの形成が他の列強に比べて遅れていた。このため、植民地政策を通じて国家の威信を内外に示そうとした側面があると考えられている。

さらに、イタリア王国には、古代ローマ帝国の後継国家であるという意識が強く存在していた。ローマ帝国が地中海全域に広大な属州と植民市(コロニア)を展開していた歴史に倣い、イタリアは自国の植民地支配を正当化・象徴化するため、“Colonie”という語を多用したと考えられる。イタリア語においては、古代の植民市も近代の植民地も同様にColonieと呼ばれており、この語の使用が古代と現代を接続する象徴的役割を果たしていた。それゆえに、切手にColonieと表記するモチベーションが、他国よりも高かったと考えられる。

このように、イタリアの植民地切手における“COLONIE”表記の多用は、後発帝国としての国際的アピールに加え、古代ローマ帝国との連続性を意識した政策の一環として位置付けられる。

なお、イタリアの植民地貨幣においては、Colonieの語は使われておらず、これはポルトガルと正反対である。イタリアが領有した東アフリカ地域はマリア・テレジア銀貨の流通が非常に盛んであり、イタリア独自の植民地貨幣は一般に根付かず、貨幣の種類が少ないことが、Colonie表記の貨幣がないことの理由に挙げられる。


ギャラリー





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なぜ植民地に独自の通貨が発行されたのか、その現状はどのようであるか、ということを熱く書きました。

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