2023年2月22日水曜日

豊予海峡ルートと中央構造線・前編(地震リスク、大分市見解の問題点)

九州・大分県と四国・愛媛県を結ぶ豊予海峡ルート構想について、安全性の面で批判がある。

その最たるものが、活断層の「中央構造線」が近接している旨の批判である。以下は大分県議会議員・堤栄三氏の批判である。度々引用し申し訳ないが、鋭い指摘ゆえに今後も引用させていただく。

 

つつみ 栄三 @eizout1125

大分市郊外の団地で宣伝が終わると、ずっと聞いていた23歳の青年が「リーフレットにある豊予海峡ルートってなんですか?」と質問。「何兆円かかるかわからない無駄な大型事業の典型で、活断層が横を通っており、大変危険なものだよ」と説明。「そうですか頑張って下さい」と激励。

 

(大日本百科全書「中央構造線」より)

中央構造線と豊予海峡ルートは上図のように非常に近接しており、確かに、危険に思える。

では、この批判は妥当なのか?本稿ではこの点について考えていきたい。

結論からいえば、大分市の説明不足である。

 

・中央構造線とはなにか?

中央構造線とは、日本最長の活断層帯である。西日本を紀伊半島―四国―九州と通っている。

このうち豊予海峡付近では、海峡最狭部から北西に2キロほどの場所を通過すると考えられている。


地震予知連絡会会報 第20巻(19788月) 5-2 「速吸瀬戸の海底地形、地質構造」海上保安庁水路部 より


活断層ということで地震が発生し、残念ながら豊予海峡周辺も例外ではない。歴史が残る時代でも、1596年に豊後で、1649年に伊予灘で、ともにマグニチュード7クラスの地震が発生したと考えられている。

 

実際、地震調査研究推進本部の「中央構造線断層帯(金剛山地東縁―伊予灘)の長期評価(一部改訂)」は次のように評価している。

「石鎚山脈北縁西部の川上断層から伊予灘の佐田岬北西沖に至る区間が活動すると、 マグニチュード8.0 程度もしくはそれ以上の地震が発生すると推定され、その際に2 -3m程度の右横ずれが生じる可能性がある」

「石鎚山脈北縁西部の川上断層から伊予灘の佐田岬北西沖に至る区間は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」

 

・伊方原発訴訟

中央構造線の地震リスクについては、伊方原発問題が非常に参考になる。

 


伊方原発は、豊予海峡ルートの要である佐田岬半島に位置する。豊予海峡ルートは原発事故発生時に半島住民の避難経路となりうるので、伊方町はその点を強調して豊予海峡ルートを支持している。

そんな豊予海峡ルートと密接に関連する伊方原発では、地震リスクを巡って訴訟が繰り返されてきた。

 

1973年(昭和48年)8月、伊方原発1号機の周辺住民35人が、設置許可処分の取り消しを求めて松山地方裁判所に訴えを提起した。これを1号機訴訟という。これは原告の敗訴で終わった。

問題なのは2号機訴訟である。これは1号機訴訟の一審棄却直後19786月に、住民33人が2号機増設許可取り消しを提訴したものである。

重要なのは、裁判中の1996年に新たな科学的知見として、中央構造線が最大マグニチュード7.6の巨大地震を生じる可能性があると判明したことである。

松山地裁は2000年、国の設置許可に違法性はないものとした上で、原告側が「国の見落とし」を指摘していた活断層の評価について「結果的に誤りであった」と、同様の訴訟では初めて国の安全審査の問題点に言及した。一方で、原子力発電所自体の安全性については「兵庫県南部地震(阪神大震災)を踏まえ、同海域の断層を考慮した解析でも、原子炉には安全性があることが認められる」とした。

 

補足:伊方原発の建設当初は、断層と地震の関連メカニズムについて解明されていなかった。

 

・大分市の見解

伊方原発訴訟で明らかとなった中央構造線の地震リスクについて、大分市はどのように考えるか。平成30年(2018年)110日の新春記者会見において、次のようなやりとりがあったので引用する。(リンク)なお、太字は引用者による。

〜〜〜〜〜

記者

先日、日本最大の断層帯の中央構造線がつながっているという話が出ましたが、安全性の確保についてはいかがですか。

市長

昨年度の調査(引用者註・2016年度調査)のときに改めてそこのチェックもしました。今さまざまな、 例えば橋、トンネル、地下道などが整備されていますが、それらと比較をして、特段このルートが危険であるということではないと。同じように整備されているものと同等の注意はしないといけないと思いますが、中央構造線が通ってるからといって、特段このプロジェクトを中止しなければならないほどの危険性があるものではないという評価をいただいていますので、それを前提に考えていきたいと思います。

〜〜〜〜〜

大分市の見解は「中央構造線の存在は、豊予海峡ルートにとって致命的なリスクではない」というものであった。

この考えは、どんな根拠に由来するのだろうか?

 

・大分市見解の問題点

佐藤市長が語る「昨年度の調査」は、「大分市豊予海峡ルート調査業務【20162021年度調査】」の「§2.路線選定―5.活断層の位置と影響について」を指すと考えられる。まずはその全文を引用したい。

 

地球規模で見ると日本は地震の集中地帯に位置するため、多くの活断層が集中しており、その中で鉄道や道路等の交通基盤の整備が行われている。四国では、中央構造線断層帯の直上に徳島自動車道や松山自動車道が建設され、他の地域でも活断層に並行、直交して鉄道や道路が建設されている。

平成7年には、山陽新幹線や建設中の明石大橋と並行する六甲・淡路島断層帯が阪神淡路大震災を、平成 28年には、九州新幹線や九州縦貫道と並行する布田川・日奈久断層が熊本地震を引き起こしたが、いずれの新幹線や高速道路も被災後復旧している。

豊予海峡ルートの北側およそ5~10kmの位置に長大な活断層帯(中央構造線断層帯)が存在する。M8.0程度かそれ以上の地震が、ほぼ0~0.3%の確率で発生することが予想されている。これまでの大震災の被災状況や活断層からの離隔の程度から、豊予海峡ルートは他の交通基盤と同条件と考えられる。

 

筆者の卓越した国語力を活かして、要旨を以下にまとめる。

1段落:他の場所でも、活断層の地震リスクに目をつぶって道路を作っている。

2段落:被災しても、復旧するので問題ない。

3段落:豊予海峡ルートにも地震リスクは存在するが、他の場所も同じだから問題ない。

 

正直言って、これを読んで納得する市民は一人もいないだろう。

なぜなら、市民が一番気になる豊予海峡ルート特有の問題について、全く触れていないからだ。

 

普通の高速道路・鉄道と異なる、豊予海峡ルート特有の問題とは何か?

それは「海上区間があること」である。

 

大分市の行なった説明は、例えば

「伊方原発には地震リスクがあるが、他の火力発電所や風力発電所にも地震リスクがあるので問題ない」

というようなおかしなものである。

違う違う、そうじゃ、そうじゃない。市民が気になっているのは「原子力発電所」の地震リスクである。原発特有のリスクとその対策について説明するか、または他の原発の地震リスクについて比較しなければならない。

これと同様に、豊予海峡ルートについて市民が気になっているのは「海上区間」の地震リスクである。「海上区間」特有のリスクとその対策について説明するか、または他の「海上区間」を持つルートのリスクについて比較しなければならない。

 

佐藤市長は引用した会見で各地の「橋、トンネル、地下道」との比較を行なった旨説明しているが、実際にはそれらは原則「陸上」のものとの比較であった。

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