2025年9月21日日曜日

「都」「道」「府」「県」のちがいと法律上の特則

 北海道はなぜ「北海県」ではないのだろうか。それは、明治時代に「東海道」「南海道」のノリで「北海道」と命名され、そのノリが今日まで続いているからである。


では、「県」と「道」には、その名前以外に、法律上でなにか違いがあるのだろうか?

「都」は?「府」は?


以下、そういった違いをみていく。なお、「法律上の」と書いたのは、条例レベルでは各自治体が好きにやっているわけで、違いがあって当然だからである。


一般法の条文中の特則規定

太字は引用者による)

労働基準法第142条


鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業に関する第三十六条の規定の適用については、令和六年三月三十一日(同日及びその翌日を含む期間を定めている同条第一項の協定に関しては、当該協定に定める期間の初日から起算して一年を経過する日)までの間、同条第五項中「時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)」とあるのは「時間」と、「同号」とあるのは「第二項第四号」とし、同条第六項(第二号及び第三号に係る部分に限る。)の規定は適用しない。


季節労働たる製糖業においては、時間外労働についての制限が緩和されるという規定である。

さて、ここでこの記事の目的を説明しよう。この規定の何が面白いのかというと、同じ製糖業者でも、鹿児島県・沖縄県で業を営む者は特則の恩恵を受けられるのに、それ以外の45都道府県の業者は通常の規制に服する点である。言い換えれば、国が、対等なはずの都道府県を区別している点が面白いのである。

つまり、この点で、鹿児島県・沖縄県は我が大分県に一歩リードしている。


尤も、令和6年4月1日以降は特別扱いも終了している。大分県が追いついたことを喜ぼう。


道路法第88条

国は、の区域内の道路については、政令で定めるところにより、道路に関する費用の全額を負担し、若しくはこの法律に規定する負担割合若しくは補助率以上の負担若しくは補助を行い、又はこの法律に規定する以外の負担若しくは補助を行うことができる。地勢、気象等の自然的条件がきわめて悪く、且つ、資源の開発が充分に行われていない地域内の道路で政令で指定するものについても、同様とする。

2 国土交通大臣は、前項の規定により国がの区域内の道路について、新設又は改築に要する費用にあつてはその四分の三以上で、維持、修繕その他の管理に要する費用にあつてはその二分の一以上で政令で定める割合以上の負担を行なう場合において、国の利害に特に関係があるときは、政令で定めるところにより、道路管理者の権限の全部又は一部を行なうことができる。

3 前項の規定により国土交通大臣が道路管理者の権限の全部又は一部を行なう場合においては、又は当該市町村道の存する市町村は、政令で定めるところにより、第四十九条の規定に基づく負担金を国庫に納付しなければならない。

河川法96条

の区域内の河川については、この法律の規定にかかわらず、河川の管理に要する費用の負担、河川管理者の権限、流水占用料等の帰属その他の事項につき、政令で特別の定めをすることができる。


北海道は広大なので、諸々の一般法に特則がある。道路法に「道」(北海道のこと)という言葉が出てくるのはかなり面倒くさい。


ところで、この法律は条文上は北海道のことだけを言っているわけではない。あくまで、末尾が「道」である都道府県一般についてのルールを述べているわけである。

これが「「県」と「道」には、その名前以外に、法律上でなにか違いがあるのだろうか?」という冒頭の問いへの答えである。ある。


本項の規定と前項の鹿児島県・沖縄県の規定との違いは分かるだろうか?前項はあくまで鹿児島県・沖縄県という具体的な2県についての規定を述べたものであり、「県」と名の付く地方自治体についての規定ではない。

一方、本項の規定は「道」一般について述べたものである。ただ、道が北海道しかないので事実上北海道の具体的な規定となっているに過ぎない。


ゆえに、我が大分県は「大分道」に改名することで、道路整備の補助などを国から受けることができるようになるかもしれない。「大分道」は高速道路すぎるか。濃霧で通行止めになってそう。

道路法第5条

第三条第二号の一般国道(以下「国道」という。)とは、高速自動車国道と併せて全国的な幹線道路網を構成し、かつ、次の各号のいずれかに該当する道路で、政令でその路線を指定したものをいう。

一 国土を縦断し、横断し、又は循環して、都道府県庁所在地(北海道の支庁所在地を含む。)その他政治上、経済上又は文化上特に重要な都市(以下「重要都市」という。)を連絡する道路


この規定は「道」一般の話ではなく「北海道」という具体的な地方自治体の規定である。46都府県では「特に重要な都市」の間でなければ国道になり得ないのに、北海道では支庁所在地であれば国道にできるらしい。

筆者が北海道知事なら、一駅ごとに支庁に区切り、支庁を極度に細分化することで支庁所在地を大幅増加させ、すべての道路を国道に指定させることで道路管理負担から逃れるだろう。重要かどうかはどうにもできないが、支庁所在地は無限に増やすことができる。ライフハックである。


その他、警察法に「道」の特則があるが、面白く料理できないので取り上げない。


「都」は特別区に対する一定の調整権限を有し、この規定が「大阪都構想」の由来である。こうしてみれば、大阪都構想というものは筆者が先に述べた「大分道」構想と(形式上)は大差ない。


なお、「府」については法的になんら「県」と差異がない。名前が雅なだけである。


憲法95条との関係

さて、これまで法律レベルでの地方自治体の特則を概観してきた。ここで気になるのが、憲法95条の教えはどうなってんだ教えは!ということである。

憲法95条

一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。



一の(特定の、という意味)地方公共団体のみに適用される特別法は、住民投票を経なければならない。法律をかじった人間なら全員知っていることである。

労働基準法第142条の制定時に、鹿児島県民・沖縄県民による住民投票、絶対やってねえだろと思って調べたら案の定やっていなかった。


このあたり、何が「特別法」にあたるかの線引きは曖昧であり、運用上は、国会の最終可決院での可決後に同院議長から内閣総理大臣へ「特別法である」旨の通知がなされるかどうかで決まるらしい。


以下、「特別法である」とされ住民投票がなされた事例の一覧を、衆議院憲法調査会の資料より拝借する。


01.広島平和記念都市建設法(S24.8.6 公布 法律第 219 号)

02.長崎国際文化都市建設法(S24.8.9 公布 法律第 220 号)

03.首都建設法(S25.6.28 公布 法律第 219 号)*

04.旧軍港市転換法(S25.6.28 公布 法律第 220 号)**

05.別府国際観光温泉文化都市建設法(S25.7.18 公布 法律第 221 号)

06.伊東国際観光温泉文化都市建設法(S25.7.25 公布 法律第 222 号)

07.熱海国際観光温泉文化都市建設法(S25.8.1 公布 法律第 233 号)

08.横浜国際港都建設法(S25.10.21 公布 法律第 248 号)

09.神戸国際港都建設法(S25.10.21 公布 法律第 249 号)

10.奈良国際文化観光都市建設法(S25.10.21 公布 法律第 250 号)

11.京都国際文化観光都市建設法(S25.10.22 公布 法律第 251 号)

12.松江国際文化観光都市建設法(S26.3.1 公布 法律第 7 号)

13.芦屋国際文化住宅都市建設法(S26.3.3 公布 法律第 8 号)

14.松山国際観光温泉文化都市建設法(S26.4.1 公布 法律第 117 号)

15.軽井沢国際親善文化観光都市建設法(S26.8.15 公布 法律第 253 号)

* 本法は、首都圏整備法(S31.4.26 公布 法律第 83 号)の制定に伴い、廃止された。

** 旧軍港市とは、横須賀市、舞鶴市、呉市及び佐世保市の 4 都市を指す。


03のみ市町村単位ではなく東京「都」の特別法だが、既に廃止済みである。

並べてみると、案外あるものだと思う。いずれも終戦直後、占領下でドサクサに紛れて制定した法律であり、主権回復後には特別法の制定・住民投票は行われていない。


最後に、特別法っぽいけど住民投票を行わなかったゴリ押し例を見て本稿を終える。


北海道開発法

この「北海道」は地方公共団体としての北海道ではなく、北海道という地域名であると強弁して押し通した。

駐留軍用地特措法

事実上沖縄県内の在日米軍基地に関する規定のみが改正される改正案だったため、特別法ではないかという意見があったが、あくまで駐留軍用地一般の話であるとして無視された。

大規模な公有水面の埋立てに伴う村の設置に係る地方自治法等の特例に関する法律

秋田県大潟村の干拓事業を想定した法律だが、当時はまだ大潟村が発足していなかったため特別法にあたらないとされた。

2025年9月4日木曜日

「第三共和政」みたいな序数表現が好きすぎる

たとえば、第三インターナショナル

たとえば、早稲田大学第一文学部


このように、日本語で 第 n 〇〇 と表される言葉がたまらなく好きである。


まず、世界をラベリングしている万能感がある。つまり、本当は個別具体的な事物なのに、それを第一、第二と規格化しているのがよい。


また、単に言葉の響きがよい。第三回大会ではつまらない。あくまで、第七艦隊のように、第n で完結しなければ美しくない。同様に、第二次世界大戦もよくない。次、はいらない。


第三共和政も第三回大会も、英語では単にThirdと表すが、日本語では区別する。

繰り返すことが予定されている事柄は回や次を付ける。組織名や個体名には回や次を付けない。


では、以下に 第n 〇〇 の表現を列挙し、飽きるまで解説していく。


第一文学部

第二共和制

第三インターナショナル

第四中学校

第五福竜丸

第六師団

第七艦隊


第三セクター

第三世界

第二東京弁護士会

第二夫人

第四北越銀行

第三京浜道路

第一生命

第九


第一文学部・学部名

早稲田大学第一文学部は、2007年まで設置されていた学部。第二文学部もあった。

両者は、第一が昼間部、第二が夜間部と区別された。


夜間部は社会人学生のために設置されたものだが、時代の変化に伴い次のような事情があったため、改組され消滅した。

・夜間部では留学生が受け入れにくい

・昼間部の滑り止めのように扱われている

・夜間部でも昼間の授業を受けることができる


ただし、改組後も夜間に授業を設けることにより、第二文学部が担ってきた社会的使命は継続して果たされている。


第一・第二の区別は昔は商学部や政経学部にも存在したようだが、1970年代に廃止されている。


神奈川大学にも第二法学部があったという。


現在、第nを冠する学部は日本に存在しない。夜間部自体も減少傾向である。

法学部第二部 のような名称が多くなっている。



第二共和政・政体


フランス革命以降のフランスの政体は第n で表される。

第一共和政→第一帝政→もろもろ→第二共和政→第二帝政→第三共和政→第四共和政→第五共和政【NOW】

これを、世界史受験生は必死に憶えることになる。


歴史がややこしいので、序数で区別する必要性が生じている。


なお、フランス革命では「第三身分」(庶民のこと)という単語も登場する。序数が多い歴史イベントである。


他国では、韓国が同様の表現を採る。人気韓国ドラマ「第5共和国」はまさに第五共和国時代の政治ドラマであるし、先般の大統領によるクーデター未遂事件の際には「第六共和国の終焉か」とネットで騒がれた。


そのほか、筆者は聞いたことがなかったが、ブラジル・ドイツ・イタリアなども序数表現を用いるらしい。

ベネズエラには第五共和国運動という政党があったらしいが、よく知らない。



第三インターナショナル・政治運動


国際共産主義運動の組織であり、コミンテルンの名で知られる。

第三までであり、第四以降は存在しない。


なお、現在イギリスの労働党や日本の社会民主党が加盟している社会主義インターナショナルは、第三インターナショナルと並行して存在した別組織である。



第四中学校・学校名


田舎に育ったので知らなかったが、主に都市部において、第n の形式をとる無骨な名前の学校がたくさん存在する。


囚人番号みたいで、無個性で、なんだか教育に悪そうに思える。


Google検索でちまちま調べたところ、小学校では小平市立小平第十五小学校、中学校では豊中市立第十八中学校が最大の数である。ありえないデカさ。


また、戦前の旧制中学校においては、東京府立第二十三中学校(現在の東京都立大森高等学校)などが存在する。これらはナンバースクールと呼ばれているらしい。


戦前において第n の形式はよく見られたものである。筆者の母校・大分上野丘高校も、第一高等女学校・第二高等女学校の流れを汲む。


さて、気になるのが、校歌である。

序数をどのように讃えているのか、たいへん気になる。

小平市立の15校・豊中市立の18校、計33校の校歌を調査した。全然知らん学校の校歌を調べるのは斬新な体験だった。


以下、各校の校歌のうち、序数に関する部分を書き抜いた。


小平第一

第二小学校

小平第三小学校

小平第四小学校

小平第五小学校

小平六小 第六小学校

小平第七小学校

八の字かこうよ 青い空

小平第九小学校

小平第十小学校

言及なし

小平十二小学生

小平十三小

小平十四

十五小 十五小 十五小学校


豊中第一

言及なし

豊中第三中学校

豊中第四中学校

五中

豊中六中

豊中第七中学校

豊中八中

豊中第九中学校

東西南北十の字に むすべ われらの友愛を

十一中

豊中われら 第十二

言及なし

豊中十四中学校

豊中十五中

豊中十六中

豊中十七中学校

豊中十八中



調査により、次のことが判明した。


・11以降は校名が長いのでフルで言えない

・市町村にひとつは、センスが光る学校がある



私立でも第n の学校はある。甲子園でおなじみの日大二中、関東一高など。




つづくかも